市職員の自殺の真相解明と公務災害認定の請求
Aさんの公務災害認定を支援する会事務局長
雑賀 光夫
1 昨年の「研究者集会」での報告と
その後明らかになった若い市役所職員の自死
筆者は、2023年10月に開かれた「第61回部落問題研究者集会―現状分析・理論分科会」で「旧同和地区の『まちづくり』を考えるー和歌山市・芦原地区の場合」と題して報告させていただきました。(「部落問題研究・249」所収2024年6月)
そのとりくみの途中で明らかになったのが悲しい事件でした。
2020(令和2)年6月25日午前2時40分ごろ、和歌山市役所職員であったAさん(当時28歳)が自宅納屋で自死しました。私たちがお母さんにお会いしたのは、それから3年半後の2024年の1月でした。ことを解き明かすにはさらにさかのぼって話を進めなくてはなりません。
2 ゆがんだ同和行政が温存されてきた和歌山市
和歌山県は同和問題にとりくむ積極的伝統をもっています。とくに1970年代、部落解放同盟中央本部が「部落第一主義」に傾斜する中、和歌山県連は民主戦線にとどまり続けたのです。しかし、一部勢力が同和対策事業を「利権」とし食い物にする状況が残りました。地域によって違いがありますが、和歌山市などで問題が多かったのです。和歌山県では、それを克服する取り組みに弱点があったと言えるかもしれません。
「同和利権」が改めて問題になったのが、5年前の2019年10月、当時、和歌山市の芦原連合自治会長であった金井という人物が詐欺容疑で逮捕された事件でした。県や市の公共事業を受けた業者に和歌山市の職員が「(芦原)自治会長にあいさつに行ってほしい」といい、金井は工事費用の上前をピンハネしていたのです。
和歌山市の同和行政のゆがみはそれにとどまりません。
・旧同和子ども会への法外な補助金は、いまも続いています。
・同和行政で建設した「改良住宅」は、空き室がたくさんあるのに公募されていません。
金井逮捕事件がおこったとき、尾花和歌山市長は、「長年のウミを出し切る」と言明しました。しかし、実行されませんでした。私は共産党県会議員としてこうしたゆがんだ同和行政を批判してきました。私が議員を引退することを決めていた2019年の3月、私の事務所に和歌山市の職員が訪ねてきてくれました。西泰伸さん、本渡児童館の館長さんでした。
西さんが言います。「和歌山市の同和行政はおかしいと思っていたのです。こんど平井児童館の若い職員が公益通報したらしい。若い子を孤立させてはいけないと、僕も自分が気になっている問題を通報しました。ネットでみると県議会で雑賀さんがこの問題を取り上げているので、相談に来たのです。」
この出会いから半年後に「金井逮捕」のニュースが流れ、西さんと私は今度こそ和歌山市を同和利権のない明るいまちにと仲間とともに「同和行政を終結させる会」(略称「同和終結の会」)に加わりました。西さんは、「同和行政の終結を」という幟旗を注文し、市役所の前でスタンディング宣伝をはじめました。
3 公益通報した職員の自死のうわさ
年が明けて2020年2月に和歌山市は、平井児童館の公益通報を調査した結果(講師謝礼・子ども会補助金不正支出など)をふまえて関係職員を処分したことを公表しました。芦原の金井問題に続いて、ウミを出し切るチャンスでした。
「同和終結の会」の運動で、これまで一般に貸し出しされなかった芦原文化会館の一般開放が実現し、新日本婦人の会のみなさんが「絵手紙教室」を開いたり、地元出身の女優、有馬理恵さんの公演を地元自治会会長さんも賛同されて開いたりするところまで来たのです。私たちは「地域との壁が一部崩れた」と喜んだものでした。
ところが、その後、「平井で公益通報した職員が自殺した」という噂が市役所内に流れたのです。西さんは市役所の職員でしたからその噂を私たちの会合で伝えましました。ことがことですし、まだ噂でしたから大きくするわけにはいきません。そこで、市役所職員とパイプのある何人かのメンバーで「対策会議」を開きました。自死というのは事実のようです。西さんが職員の名前をつかんでくれました。(私たちは「Aさん」としています)解同系の職員Mが監視役についていたともいいます。
職員録にはAさんの名前がありますが、個人の住所がはいっていません。市役所にパイプがある仲間が退職者などに電話しました「Aさんという若い子が自殺したといううわさがあるのですが・・・・」
「知らんなあ」
「自殺というのは退職してからとちがうか」いろいろです。その一人がぽつっと漏らしました。
「Aくんというのは○○(地名)の子とちがうか」
私はゼンリン地図でその地域をコピーし「A」という名前の家に印をつけました。「Aさん訪問」を始めたのです。なかなか行きつかない。「○○地域というのは、ガセネタかもしれないな」と言っているとき、あるお宅で、「その話やったらうちの近所の方と違うか」と言われたのです。
4、お母さんとの出会い 驚きの実態
こうして私たちは、今年に入ってお母さんにお会いすることができました。お母さんは、息子が自死した真相解明を和歌山市にも県にも求めたが相手にされなかった無念さを語られました。
私がここまで経過を詳しく書くは、この「Aさん訪問」がなかったら、Aさんの苦しさ、お母さんの無念さは、永久に闇に葬られていただろうと思うからです。
お母さんが公務災害申請を出しておられることを知り、支援の取り組みをはじめました。 自由法曹団県支部長である小野原弁護士に相談をかけました。弁護士は「和歌山ではこういう問題を取り上げた経験がすくないから他府県の経験もきかないといけないね」とアドバイスしてくれました。
これほどのゆがんだ実態がありながら、和歌山県でそれを批判する活動が、一部の議員と個人グループだけの活動になっていたことも反省してみる必要があると思います。
そこで私は部落問題研究所をはじめ思いつくところに電話し、「過労死・自殺なら岩城弁護士でしょう」という話を聞いて、「いわき総合法律事務所」にたどり着き、「相談メモ」をお送りしたのです。
今年1月の土曜日の夜7時ごろでした。私の携帯が鳴りました。
「弁護士の岩城です。一度、西さんと雑賀さんのお話を聞きたいのですが・・・・」
私は飛び上がって西さんに電話しました。西さんがお母さんに話をするとお母さんは「私も会いたい」という。そこで指定された日、大阪のいわき事務所に向かったのでした。
お母さんは大きな紙袋をもって電車に乗りこみました。その日先に出していた公務災害申請が却下され、関係書類を返されたのです。そこには、Aさんが平井児童館で不正な申請書類作成に加担をせまられた経過が生々しくかかれた書類病気休職願【資料1】、職場復帰後、平井子ども会副会長である職員Mが隣の課の副課長として配置された座席配置図【資料2】がはいっていたのです。
お母さんが遺品から探し出したものでした。
5 「公務災害認定を支援する会」(略称・支援する会)
弁護団・遺族と相談しながら、6月1日「Aさんの公務災害認定を支援する会」を立ち上げました。会の目的は二つです。
第一は、「Aさんの公務災害を認定すること」これは、公務災害基金和歌山県支部への要求です。
第二は、「公益通報したAさんの自死にいたった真相を解明する第三者委員会を設置すること」これは、和歌山市長に対する要求です。
ちょうどこのころ、兵庫県知事のパワハラ等の問題で「内部通報」した職員が自死に追い込まれた事件が、報道されはじめていました。また、この問題は、森友学園問題で公文書改ざんを強いられ自死に追いこまれた赤木俊夫さんの案件とも重なるものだと私たちは考えています。
「支援する会」結成前に記者発表をすると各紙が報道してくれました。とくに公益通報したAさんが職場復帰したあと、処分された職員が同じフロアーに配置された問題で「公益通報者が守られていたのか」という観点からの報道が目立ちました。他方、「平井児童館」で問題が起こったことが報道されましたが、同和利権問題であることの掘り下げは一部マスコミにとどまっています。
先にもふれたように和歌山では、最近、「同和利権勢力」との闘いの経験がありません。労働組合や民主団体の一部でもこの点では「一歩引く」という状況があります。「支援する会」結成にあたっても、だれに代表になってもらうかで苦労しました。
自死問題が明らかになる前、和歌山県立図書館で同和関係図書閲覧制限が問題になっており、歴史学者の藤本清二郎氏(和歌山大学名誉教授・部落問題研究所監事)が、「終結させる会」にも足を運んで訴えていただいたことがありました。そこで今回の「支援する会」には、元本渡児童館長の西泰伸氏とともに藤本氏を含め五人の個人に「代表世話人」をお願いし、結成にこぎつけたのです。
6 真相解明を求めて
「第三者委員会」と「公正職務審査会」
真相解明の焦点になっているI氏という人権問題専任講師がいます。I氏は、元市役所職員ですが、退職後も人権問題専任講師を務め、平成30年度だけで3862人もの職員が受講しています。平井での公益通報では、1000万円もの講師料受取の不正、子ども会補助金不正が明らかになった関係者であり、「返還」しているのです。しかも、その方の周辺での国保料滞納の回収にAさんがかかわったため、「報復人事」として年度途中の5月に平井児童館に異動になり、不正な書類作成(病気休職願参照)を迫られたといわれるのです。これが、事実であれば市当局がその気になればすぐわかることです。それが闇に葬られようとしている。だから私たちは「第三者委員会をつくれ」と要求しているのです。
市当局も黙っていることはできなくなり「第三者による公正職務審査会」を開くと記者発表しました。この審査会は、平井での不正問題が明らかになった時、「設置条例」を作ったのですが、一度も開いたことのないものでした。私たちは、「第三者委員会で解明すべきことは何か」を文書で明らかにして、実効ある解明を求めています。
6月に入って、私たちは市役所前で宣伝行動を行いました。一人の職員が、駆け寄ってきて走り書きのメモを手渡してくれました。
「当時の収納班長であった上司氏と方針の違いでAさんは異動となった(報復人事)と聞いたことがある。Aさんは、滞納差し押さえする方針であったが、上司がその方針を嫌っていた」(上司氏、Aさんは実名)との本人署名入りのメモでした。真相解明は、これからです。 (2024年8月)
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